気仙沼市にじわじわと増えているあの動物を、ご存じだろうか。ホテル、図書館、観光地……。あなたが足を運んだ場所で、偶然出会えるかもしれない。その名も「気仙沼ゼブラ」。色とりどりのニットを身にまとった、オシャレな仲間たちだ。
最初の1頭「オスカー」がJR気仙沼駅近くに現れたのは、5年以上前。次は唐桑の民宿、その次は魚市場、岩井崎の塩作り体験館、大島の休暇村。今月には市内のゲストハウスに13頭目の「虹」がやってきた。背丈110センチ、プラスチック製のシマウマだ。
シマウマを気仙沼の名物にしようと発案したのは、市内で毛糸やニット製品の会社を経営する梅村マルティナさん(61)だ。
ドイツで生まれ、医学研究者として1987年に来日。京都にいた時に東日本大震災を経験した。ドイツに帰るか悩んだが、家族と話し合って日本に残ることを決意した。
「残ったからには、この国のために何かしなければ」と思った。テレビで見た避難所の人たちは、手持ちぶさたにしている。自分だったら編み物があればうれしい。母国ドイツの毛糸と編み針のセットを気仙沼の避難所に送ると、「もっとほしい」と喜ばれた。
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2012年3月、京都から気仙沼に移住し、「梅村マルティナ気仙沼FSアトリエ」を設立。震災で仕事をなくした女性たちを従業員に雇った。カラフルに仕上がるドイツ製毛糸が人気を呼び、今は全国の百貨店などでの催事出展やウェブ販売を行う。
マルティナさんは震災後、若い人が次々と気仙沼を出て、支援に来るボランティアも減っていくのを見てきた。「外から人を呼び、出ていった人も戻れるような街にしたい」。そう感じてきた。
思い出したのが、母国ドイツの「ベルリンベア」。首都ベルリン市の紋章はクマで、街のいたるところにクマの像が両手を上げて立ち、クマのグッズもたくさんある。気仙沼のシンボルには何がいい? マルティナさんの会社では、白黒まだらの毛糸「ゼブラ」が人気商品だった。よし、シマウマだ――。
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種を明かせば、全国で毛糸販売の催事に参加するとき、シマウマを使っている。催事が終わると気仙沼に運び、知り合いを頼るなどして置き場所を見つけてきた。おなかにはそれぞれ違う色の毛糸の腹巻きが巻かれ、気仙沼の寒い冬も暖かそうだ。1頭1頭に名前もついている。
シマウマがいる施設をよく訪れ…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル